法定後見と任意後見には、次のような違いがあります。
① 制度利用のための事前準備の有無
法定後見と任意後見のいずれについても、家庭裁判所に申立てを行い、審判が確定することにより制度を利用することができますが、任意後見については、その前提として、判断能力がある段階で、本人と任意後見受任者との間で公正証書により「任意後見契約」を締結しておく必要があります。
② 希望する後見人の選択の可否
法定後見では、後見人等にしたい人について、申立時に候補者として希望することはできますが、最終的な判断は家庭裁判所が行いますので希望通りにならないこともあります。
一方、任意後見では、「任意後見契約」において定めた人を後見人にすることができます。
なお、欠格事由(未成年者・破産者など)に該当する者は、後見人になれません。
③ 代理権の範囲
法定後見は、裁判所の審判により、本人の判断能力の低下に応じて補助・保佐・後見という3つの類型に分類され、その代理権の内容も決定されるのに対し、任意後見では、「任意後見契約」において、代理権の内容を自由に定めることができます。
④ 後見人の報酬
法定後見の報酬は、後見人等の行った業務に応じて家庭裁判所が決定するのに対して、任意後見では、「任意後見契約」において、自由に報酬を決めておくことができます。
⑤ 任意後見監督人の関与
法定後見では、監督人が選任されるかどうかは家庭裁判所の判断ですが、任意後見では、必ず監督人が選任されます(監督人への報告義務、報酬の支払いが発生します)。
⑥ 取消権の有無
法定後見では、本人が後見人等の同意を得ないで行った法律行為は、後見人等が家庭裁判所に与えられた権限内で取り消すことができますが、任意後見では、そのような「取消権」はありません(取消権が必要な場合は、法定後見に移行する必要があります)。
⑦ 代理権の追加の可否
法定後見では、後見類型を除き、本人の同意があれば、家庭裁判所の審判により事後的に代理権を追加することができますが、任意後見では、「任意後見契約」で決められた代理権以外の代理権を追加することはできません(代理権の追加が必要な場合は、法定後見に移行する必要があります)。