預貯金を引き出してしまったという事実のみをもって、相続放棄ができないということにはなりません。
引き出した預貯金から葬儀費用を支払ってしまったとしても、葬儀費用の性質上、また社会的な見地から不当とは言えないとして、相続放棄が認められた判例もあります(大阪高等裁判所平成14年7月3日決定)。
個々具体的な判断については、支払った金額やその他の状況などから総合的に検証する必要がありますが、相続放棄が認められる可能性はあると言えますので、早目にご相談されることをお勧めいたします。
なお、引き出した預貯金を私的に使用した場合は、法定単純承認事由に該当するため、相続放棄をすることはできなくなります。
大阪高等裁判所平成14年7月3日決定
葬儀は、人生最後の儀式として執り行われるものであり、社会的儀式として必要性が高いものである。
そして、その時期を予想することは困難であり、葬儀を執り行うためには、必ず相当額の支出を伴うものである。これらの点からすれば、被相続人に相続財産があるときは、それをもって被相続人の葬儀費用に充当しても社会的見地から不当なものとはいえない。
また、相続財産があるにもかかわらず、これを使用することが許されず、相続人らに資力がないため被相続人の葬儀を執り行うことができないとすれば、むしろ非常識な結果といわざるを得ないものである。
したがって、相続財産から葬儀費用を支出する行為は、法定単純承認たる相続財産の処分(民法第921条1号)には当たらないというべきである。