1 .認知症対策(資産凍結の防止)
認知症発症後も積極的な相続対策などを続けたいケース
日本では、本人の意思能力がない場合、法律行為(売買や贈与など)を単独ですることができません。
例えば、本人が、相続対策のために投資不動産を買い替えたいと希望していた場合に、認知症などで急激に意思能力が低下してしまうと、不動産の売買ができなくなってしまいます。
意思能力がない人が不動産を売買するためには、「成年後見制度(法定後見)」を利用する必要がありますが、成年後見制度(法定後見)では、被後見人の財産を保護することが重視されるため、投資不動産の買い替えなどリスクの生じる取引などは、基本的にできません。
このようなケースにおいて、事前に家族信託を利用することで、不動産の売買ができないなどの資産凍結を防止することができます。
具体的には、本人の意思能力がしっかりしているうちに「信託契約」を締結し、その契約のなかで、受託者の権限について「受託者の判断で、信託財産の管理、運用または処分をすることができる。」と定めます。
この定めを設定することで、委託者が認知症などにより意思能力が低下した後でも、受託者が状況に応じて信託財産を運用することや処分することが可能になります。
2 .財産承継の順序の自由な設定(受益者連続型信託)
子供がいない夫婦の相続(収益不動産の承継)のケース
子供がいない夫婦において、夫が「自分が亡くなったら妻にすべての財産を相続させる」という内容の遺言を書くケースは少なくありません。
このケースにおいて、夫としては、さらに「妻に財産が行くのは良いが、そのあとに妻側の親族に財産が流れてしまうのは避けたい。
できれば妻のあとは甥に承継させたい」と希望していたとしても、この希望は、遺言では実現することができません。
配偶者に相続させた財産は、当該配偶者に相続が起きた場合、配偶者側の親族(親や兄弟姉妹)が相続人として財産を取得することになります。
なぜなら、遺言では、自分の財産に関してのみ承継先を指定することができ、自分以外の人の財産に関しては、承継先を指定することができない(無効)とされているからです。
このようなケースにおいて、家族信託を利用することで、夫の希望を実現することができます。
家族信託では、財産や財産から生じる利益(受益権)の承継先や順番を自由に決めることができます。
例えば、夫が所有する収益不動産について「自分が亡くなったあとは妻に承継させ、妻が亡くなったあとは甥に承継させたい」と考えているケースにおいて、信頼している弟を受託者にして受益権の承継順序を「妻 → 甥」と設定することで、遺言ではできない①「最初の財産の承継者を妻」②「妻が亡くなった後の承継者を甥」という希望を適法に実現することができます。