相続登記を申請しなかった場合のリスクのうち、代表的な4つのリスクを説明します。
なお、令和6年4月1日以降は、相続登記義務化により過料(最大10万円)が科せられる可能性があります。
詳細については「不動産の相続登記が義務化される?過料はいくら?手続きにかかる費用は?」をご参照ください。
1.今の段階では「まとまっている話」が白紙同然になってしまう可能性がある。
相続人のうち、不動産を取得する特定の相続人が話し合いで決まっていたとしても、その事実を証明する「遺産分割協議書」を作成していない場合や、紛失してしまった場合は、相続登記をすることはできません。
そのような状況下において、さらに、当時の相続人に相続が発生すると、相続登記に使用する遺産分割協議書には、亡くなった相続人の相続人全員の同意(実印での押印)が必要になってしまいます。
亡くなった相続人の相続人全員が、当時の話し合いに理解を示し、協力をしてくれれば大きな問題は生じませんが、関係性が悪く同意をしてくれないことや、金銭(ハンコ代)を要求されるケースもあります。
つまり、当時、不動産の相続登記が可能な状況であったとしても、その証明となる遺産分割協議書を作成していない場合や、紛失してしまった場合などは、成立していた遺産分割協議の内容どおりに不動産を取得して相続登記をすることができなくなってしまう可能性があるということです。
なお、遺産分割協議書のコピーが残っている場合であっても、原本を紛失している場合は、コピーを使用して相続登記をすることはできません。
この場合、改めて遺産分割協議書を作り直す必要があります。
そして、作り直す際は、当時の相続人の中に亡くなっている相続人がいる場合、前述のとおり亡くなった相続人の相続人全員の同意が必要になります。
2.相続した不動産を売却するには、前提として相続登記をする必要がある。
相続をした不動産を売却することになった場合、その前提として、必ず相続登記をしなければなりません(被相続人名義から買主名義に直接名義変更することはできません)。
相続の発生直後は、「売る予定はないので、相続登記はあとですれば良い」と考えていても、その後のライフスタイルや生活環境の変化で、急遽、不動産を現金化する必要が生じることもあります。
そのような状況になって、急いで相続登記をしようとしても、他の相続人と連絡がつかず必要書類が集まらなかったり、遺産分割協議書を紛失していると相続登記ができず、売却手続きがスムーズに行えない可能性があります。
3.第三者からの差押えから財産を守れない可能性がある。
遺産分割協議を行い、特定の相続人が不動産を単独で取得することとなった場合、相続登記をしない限り法定相続分を超える持分については、第三者(相続人以外)に対抗することはできません。
例えば、相続人の中に多額の借金を抱えている人がいて返済が滞っている場合、お金を貸している債権者は、債権者代位権を行使して「法定相続分」で相続登記を行い、借金のある相続人の持分を差押えることができます。
この場合、借金をしていない相続人が単独で相続するという遺産分割協議が成立していた場合であっても(遺産分割協議書が作成されている場合でも)、差押えにより競売がされると、遺産分割協議どおりに相続できなくなります。
4.遺言により取得した不動産について、法定相続割合を超える部分は対抗関係になる。
相続法の改正前は、相続人が「相続させる旨の遺言」によって取得した不動産については、登記をしなくても第三者に対抗することができましたが、改正後は、自己の法定相続割合を超える部分については、登記をしない限り第三者に対抗できないことになりました。
例えば、他の相続人が勝手に法定相続割合で相続登記を行い、第三者に自己の持分を売却してその登記がなされてしまうと、相続登記を怠っていた相続人は、遺言により不動産の全部を取得したにもかかわらず、その持分について所有権を取得することができません。
(※) 2019年6月30日までに発生した相続については、改正前の民法が適用されるため、相続人は、「相続させる旨の遺言」があれば、相続登記をしていなくても第三者に対抗することができます。
参照条文
民法第899条の2 第1項 (共同相続における権利の承継の対抗要件)
相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第901条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。