相続放棄をする場合は、熟慮期間内(自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内)に家庭裁判所に対して「相続放棄の申述手続き」をする必要があります。
しかし、熟慮期間内であっても、法律上、以下の事実がある場合は、相続を承認したものとみなされ、相続放棄をすることができなくなってしまう可能性があります。このことを「法定単純承認」といいます。
・遺産(預貯金など)を私的に使用してしまった場合
・遺産分割協議を行った場合
・遺産の株式を使用(売却換価・議決権行使)した場合
つまり、相続人が遺産の全部または一部について処分行為(売却など)をしてしまった場合は、相続放棄をすることができなくなるということです。
この点、誤って遺産の預貯金を一部引き出してしまったというだけ(使用していない状況)であれば、法定単純承認にはならないと考えられます。
また、引き出した預貯金から葬儀費用を支払ってしまった場合については、葬儀費用の性質上、また社会的な見地から不当とはいえないとして、相続放棄が認められた裁判例もあります(大阪高等裁判所平成14年7月3日決定)。
ただし「法定単純承認」に該当するかどうかの具体的な判断については、相続人の遺産に対する行為の内容やその他の状況などから総合的に検証する必要がありますので、ご自身で判断せず、司法書士に相談をした方がよいでしょう。
なお、相続放棄をした場合であっても、生命保険金を受け取ることができます(生命保険金は、民法上の遺産ではないため)。