遺産の預貯金の性質と活用できる制度
相続が発生すると、遺言がある場合を除いて、預貯金は法定相続人の共有財産(法定相続割合での共有)になります。
そのため、相続人が複数名いる場合は、遺産分割協議を行い、その内容に基づいて金融機関で相続手続きをする必要があります。
しかし、遺産分割協議の成立までに「被相続人の配偶者の生活費が支出できない」といった不都合が生じることがあります。
このような場合、3つの条件(①遺産分割の調停または審判の申立てがされている、②相続債務の弁済や相続人の生活費捻出などの必要性がある、③他の共同相続人の利益を害しない)を満たすことで、家庭裁判所に「預貯金債権の仮分割の仮処分」を申し立てることができます。
仮処分が決定された場合、原則、遺産の総額に申立人の法定相続分を乗じた額の範囲内で預貯金の仮分割が認められ、金融機関に対して「仮処分に基づく払戻請求」をすることが可能になります。
ただし、利用のハードルが高く、また、お金がすぐに必要なケースには向いていない一面もあります。
裁判所の関与なくスムーズに預貯金の一部を引き出す方法としては「遺産分割前の預金の払戻し制度」の利用が検討できます(限度額あり)。
この制度を利用することで、各相続人は単独で、被相続人の預貯金のうち一定の金額について、遺産分割協議前に払い戻しを受けることができます。
被相続人の預金に関する注意事項
相続が発生した場合、口座はすぐに凍結されないため、相続開始後もキャッシュカードを利用して出金ができてしまう。しかし、相続開始後の出金は、後日、相続人間のトラブルに発展する可能性もあるため、緊急の場合を除き、極力避けるべき
遺産分割前の預金の払戻し制度
相続開始時の預金額×1/3×払戻しを行う相続人の法定相続分
=相続人が単独で払い戻しできる金額
子①が払戻しできる金額 1,200万円×1/3×1/4=100万円
「遺産分割前の預金の払戻し制度」では、1つの金融機関から払戻しを受けられる金額の上限を「150 万円」と設定。そのため、仮に預貯金が 1億円ある場合でも、その預貯金を1つの金融機関の口座のみで管理している場合は、150 万円しか払戻しを受けられない。しかし、2つの金融機関に 5,000 万円ずつ預けていれば、150 万円ずつ合計 300 万円まで払戻しを受けることができる(300 万円以上を引き出す権利がある場合)