債務の遺産分割は相続人間では有効でも債権者には主張できない
遺言書がない場合、遺産の分割方法は、原則、相続人間で自由に決めることができますが、注意すべき点があります。
それは、債務(借金など)の遺産分割は、相続人間でのみ有効ということです。
被相続人が生前に借金をしていたケースで、遺言や遺産分割協議によって特定の相続人がすべての遺産を相続することになった場合、「遺産をすべて取得したのだから、借金もすべて支払う義務がある。」と考える方は少なくありません。
しかし、法律はそのような取り扱いにはなっていません。
特定の相続人がすべての債務を負担するという遺言がある場合や、債務に関して法定相続分と異なる負担割合での遺産分割協議が成立した場合であっても、それを債権者に対して主張することはできません。
つまり、各相続人は、自身がプラスの財産を取得したかどうかにかかわらず、原則、法定相続割合に応じた債務の履行義務があります。
相続人の立場からすると不平等にも思えますが、法律上このような取り扱いにしておかなければ、資力や返済能力のない相続人に債務を押し付けることなどが可能となってしまい、債権者の利益が不当に害されてしまいます。
なお、特定の相続人がすべての借金を相続するという遺産分割協議が成立した後に、債権者がその遺産分割協議の内容に承諾の意思表示をした場合は、他の相続人は借金を返済する義務がなくなります(事実上、債務の遺産分割が成立)。
債務の相続
債務者が死亡し、相続人が数人ある場合に、被相続人の金銭債務その他の可分債務は、法律上当然分割され、各共同相続人がその相続分に応じてこれを承継するものと解すべきである。