お問い合わせはこちらから

成年後見制度の「法定後見制度」と「任意後見制度」 意外と知られていない違いとは?

成年後見制度は、大きく分けて2種類あることをご存知ですか?
【法定後見制度】【任意後見制度】です。

この2つの制度は、ご本人の「権利、財産を守る。生活を支援する。」といった根本的な趣旨は同じですが、大きく異なる点がいくつもあります。

ちなみに、皆さんがよく耳にする【成年後見】という言葉の大半は「法定後見制度」を指していることが多く、実際、「任意後見制度」は「法定後見制度」に比べ、その利用者はごく少数です。

しかし、誤解しないでいただきたいのは、決して任意後見制度が法定後見制度に劣っているわけではありません。

むしろ、任意後見を利用できる人であれば、法定後見よりも、より自分の思い描く老後、未来を実現できる可能性があります。

法定後見も任意後見も、自分や家族のこれからを考える上で非常に有用な制度です。

今回は、この2つの制度の違いを中心にご紹介させていただきます。
ご自分や家族のために是非役立てていただければと思います。

1.始まり方

この2つの制度の1番の違いは【始まり方】です。
法定後見は、ご本人が実際に物忘れが酷くなったり判断能力が低下してきたことにより、契約や財産管理に不安や不都合が出てきた場合に、ご本人や親族が裁判所に申し立てることによって始まります。
つまり、判断能力が低下してからでなければ利用することはできない制度です。

これに対して任意後見は、将来の判断能力が低下した場合に備え、誰を後見人にし、その後見人にどういったこと(法律行為等)を任せるかなどを予め決めて、任意後見契約を、ご本人と、ご本人が選んだ将来後見人になる人(任意後見受任者)が結ぶことによって始まります。

任意後見契約は契約なので、法定後見とは違い、判断能力が低下してからでは、基本的には利用することが出来ません

つまり、法定後見【実際に判断能力の低下してきた場合に、既に存在する不安・不都合を解消するため、裁判所に申し立てることにより始まる制度】であり、これに対し任意後見【判断能力があるうちに、今後生じるであろう不安・不都合に備えるため、契約することによって始まる制度】というわけです。
ここが2つの制度の1番大きな違いです。

そして、この違いが、前述した利用者数の差に大きく影響しているものと考えられます。 法定後見の多くは、判断能力等の低下により、実際に「財産の管理ができない」、「不動産の売却ができない」、「介護サービスや施設の利用契約ができない」といった現実に直面し、必要に迫られて、ご本人ではなくご本人の親族が申し立てを行い法定後見制度を利用しているというのが大半です。

したがって、超高齢化社会と言われる現代においては、この制度を利用しなくてはならない状況に置かれる方も多くなり、必然的にその利用者は年々増加しています。

これに対して任意後見は、決して利用しなければならないものではなく、利用するもしないも本人次第、あくまでも自分や家族の将来に対する備えのため「自主的」に利用される制度です。

そのため、現状では利用者はごく少数に留まっているわけです。
誤解を恐れずに言えば、「将来について不安を感じるようなことがあっても、必要に迫られないと中々動かない」という日本人の性質が顕著に現れているのではないでしょうか。

なお、任意後見は契約から始まると書きましたが、正確に言うと少し違います。
将来後見人になる人(任意後見受任者)は、原則として任意後見契約を結んだ後すぐに後見人として活動を開始するわけではありません。

それは、本人にはまだ任意後見契約を結ぶことが出来るだけの判断能力があり、すぐには後見人の援助を必要としないためです。

ではいつ始まるのかというと、実際に判断能力が低下し、任意後見受任者等が裁判所に申し立てることによって始まります。

ですから、正確には、任意後見の始まりは契約の締結時ではなく、法定後見と同様に裁判所への申し立てをして、審判が確定した時です。

とは言え、任意後見は「任意後見契約」が結ばれていない限り始まらない制度ですので、今回は「始まりは契約」からと説明させていただいています。

2.後見人の権限

2つ目の大きな違いは、後見人の「権限」です。

法定後見は、その類型(補助・保佐・後見)によって少しづつ権限は違いますが、成年後見人に限って言うと「一身専属権(結婚や養子縁組など)」を除くほとんど全ての代理権、同意権が法律により後見人に与えられます。

「この代理権はあり、の代理権はなし。」といった選択権はありません。(補助、保佐の場合は、法律で定められた範囲内で代理権・同意権の選択が可能です。)

なぜなら、判断能力が著しく低下している被後見人が、その代理権が必要か否かを自分で判断するのは困難だからです。

また、申立人の多くはご本人ではなくその親族であるため、その親族が本人の知らないところで代理権の有無を判断してしまうのは不適当だという点も挙げられます。

成年後見人に与えられた権限は、本人の意思とは関係なく法律によって与えられたものであるため、一定の制限もあります。

それは、成年後見人は、被後見人本人のためになる(利益になる)ことしか行えないということです。

「そんなことはあたり前でしょ?」と思われるかもしれませんが、これは意外と難しい問題です。

例えば、被後見人の親族から、「相続税対策に贈与をして欲しい」、「保険契約をしてほしい」「孫に教育資金の贈与をしてほしい」と言われたとします。

たしかに、ご本人の判断能力がしっかりしていたら、自分の子や孫のため相続税対策を望んでいたかもしれません。

しかし、本人の判断能力が低下してしまった今、ご本人が本当にそれを望んでいるのかについて、後見人が自身で判断することは、現実的には非常に困難といえます。

良くご相談のある「相続税対策」は、相続人となる親族の利益にはなりますが、客観的には「被後見人のため」とは言えず、むしろ、後見人としては被後見人の財産を減らす行為と判断せざるを得ないのです。

そのため、成年後見人は原則として「相続税対策」や「贈与」などの行為をすることはできません。

また、投機や積極的な資産運用も原則できません。

資産運用などは、うまくいけばもちろん本人のためになりますが、現実には100%うまくいく保証はありません。

実際に財産が増加するかどうかではなく、本人の財産を危険にさらすこと自体が問題となるためです。

成年後見人は、あくまでも被後見人の財産を「守る」ことが求められており、積極的に「増やす」ことは求められていないのです。

成年後見人をしていると、「これは被後見人のためといえるのか」、「この行為をするべきか」と、たびたび難しい判断を迫られます。

なお、相続税対策や贈与は、一様に絶対不可!資産運用も絶対不可!というわけではないので、その都度、裁判所と相談して慎重に判断するしかありません。

これに対し、任意後見はというと、重ねての説明となりますが「契約」から始まります。契約ですから、基本的には当事者の合意があればどのような内容にすることも可能です。 

つまり、任意後見は、誰を後見人にし、どういった代理権を与え、どのように財産を管理するのかを、判断能力がハッキリしている本人自身が自由に決めることができるのです。

つまり、法定後見では出来ないと言っていた「相続税対策」も「資産の運用」も任意後見契約に記載されていれば、それは紛れもなく本人の意思ですので、任意後見人が行うことが可能です。

ただし、あくまでもご本人の財産を、任意後見人が管理処分するということには変わりありませんので、任意後見契約にその代理権を入れるかどうかは慎重に判断する必要がありますし、任意後見人としてもどのように業務を行うか慎重に判断しなくてはならないことは言うまでもありません。

そうでなければ、せっかく安心のために利用した制度が逆にトラブルを巻き起こしてしまいかねません。

ここまで読んでいただくと、「任意後見は何でもできる!何て素晴らしいんだ!」と思われる方が多いかもしれませんが、注意しなければならないこともあります。

その1つ目は「取消権」がないことです。

取消権とは、判断能力の低下した被後見人等が誤って何かの契約をしてしまった。または騙されて変な物を買わされた。といった場合に、その行為、契約を取り消すことが出来る権限のことです。

法定後見の場合は、権限に取消権があれば、本人が不利な契約を結んでしまった場合でも、日用品の買い物等を除いてその行為、契約を取り消すことが出来ます。

しかし、任意後見には取消権を付けることが出来ません。
したがって、もし、任意後見を利用していても、本人が認知症や精神疾患の症状で不必要な通販を利用してしまう、すぐに契約をしてしまうといった行為が見られる場合は、任意後見で対応するのには限界があるため、任意後見を終了し法定後見への変更も考えなければならないかもしれません。

2つ目は、任意後見人の代理権は「任意後見契約に記載した代理権」しかないということです。

つまり、契約時点では必要ないと思い記載していなかった代理権は、任意後見人が選任された後に実際に必要になったとしても、その代理権を後から付けることは出来ないということです。

この場合も、本人の状態等により、任意後見契約に記載されていない代理権が必要となれば任意後見を終了し、法定後見への変更も考えなければならないことになります。

こういったデメリットもありますので、任意後見の利用をご検討される方は、将来的に起こりうる様々な状況を想定した上で、自分のライフプランに合った不備のない任意後見契約を検討していただく必要があるでしょう。

ここまで、法定後見と任意後見の違いについて【始まり方】と【権限】を中心に説明させていただきました。

他にも、法定後見の場合、

後見人等に支払われる報酬は家庭裁判所が決定するのに対し、任意後見の場合は、任意後見契約の中で報酬を決める必要がある。

法定後見の場合は、居住用不動産の売却等には家庭裁判所の許可が必要なのに対し、任意後見の場合は許可はいらない。

・・・などなど、実際のところ、法定後見と任意後見の違いはまだまだあります。

ただ、結局のところ、その違いのほとんどは「法律によって権限が与えられる法定後見」と「契約を結ぶことによって始まる任意後見」という違いが根幹にあります。

やはり、契約により始まる任意後見の方が、必然的に自由度が高くなり、本人の思いがより強く反映されことになります。

もし、この記事をお読みになって感じることがあれば、ぜひ前向きにこれらの制度の利用を検討されることをおススメします。

きっと今後は、こういった素晴らしい制度が広く認知され、さらに普及していくと思われますし、私たちもそれを願っています。

当窓口でも、任意後見・法定後見のご相談はもちろん、その後の手続きや実際の後見業務の受任もしておりますので、お気軽にご相談ください。

皆さんが、法定後見や任意後見を利用しようと考えたとき、少しでもお力になれるよう、環境とサービスを整えて参ります。

私たちのサービスが、お役に立ちますように。

当記事は、記事執筆時点で公となっている情報に基づいて作成しています。
この記事の監修者

新宿の司法書士 中下総合法務事務所
代表司法書士 中下 祐介

司法書士/簡易裁判所代理権/民事信託士
宅地建物取引士/家族信託普及協会 会員
ファイナンシャルプランナー

関連記事合わせてお読みください