成年後見制度の鑑定について(鑑定になるケース・費用など)
今回は成年後見制度における鑑定の話をしたいと思います。
鑑定とは、本人の判断能力がどのくらいなのかを医学的に判断するための手続きです。
全ての申し立てにおいて鑑定が行われるわけではありませんが、鑑定が行われる場合、審判が下りるまでの時間は通常より長くなり、鑑定費用も必要となるので、鑑定が行われるかどうかは、申立人や本人にとってとても重要です。
それでは、成年後見等開始申立において鑑定が行われる場合に要する期間、鑑定費用、そしてどのような場合に鑑定が行われるかについてお話ししたいと思います。
*どういった場合に鑑定になるか等を裁判所が公表しているわけではありませんので、あくまでも当窓口の見解として、ご参考にしていただければと思います。
鑑定に要する期間
裁判所が公表している平成29年度の統計では、鑑定に要する期間は、1ヶ月以内が57.9%、2ヶ月以内が33.2%ということですので、鑑定が行われた事件の9割は2ヶ月以内に鑑定手続きが終了していることになります。
とはいえ、通常1、2ヶ月程度で終了する手続きが3、4ヶ月掛かるのであれば、申立人にとっても、すぐに支援が必要な本人にとっても、大きな負担になります。
それでは、鑑定の流れについてお話ししたいと思います。
鑑定を行う場合、まず鑑定を行う医師を決めなければなりません。
成年後見等開始申立を行う際は、必ず裁判所所定の診断書を提出する必要があります。
※ 診断書はこちら ⇒ 診断書
そしてその2枚目(付票)には、診断書を作成した医師が『鑑定を引き受けることが出来るか』もしくは『他の医師を紹介できるか』という項目があります。
ここで、診断書を作成した医師が鑑定を引き受けてくれる場合や、他の医師を紹介してくれる場合は、鑑定が行われることになった場合でも、鑑定開始までに時間がさほど掛からないため、比較的スムーズに鑑定を開始することが出来ます。
しかし、もし、診断書を作成した医師が鑑定を引き受けることができず、紹介もできない場合は、鑑定をしてくれる医師を申立人自身が探すか、裁判所に選任してもらわなければなりません。
私見ですが、診断書を作成した医師が精神科医でない場合は『引き受けられない』を選択している場合が多く、また、『別の医師を紹介する』を選択する医師は全体的に少ないように思います。
次に、鑑定をしてくれる医師が決まったら、鑑定費用の振り込みを裁判所から求められます。
鑑定費用の振り込みをすると、裁判所から鑑定依頼書が医師に送付され、正式に当該医師に鑑定を依頼することになります。
ここからが鑑定の始まりです。
まずは鑑定の日程調整が必要となります。
早い場合は、正式に鑑定依頼がされた後、数日ほどで鑑定をしてもらえる場合もあれば、1ヶ月やそれ以上という場合もあると思います。
これはその医師と申立人、本人のスケジュール次第ですが、本人が病院に出向けるか、もしくは医師に本人の居所まで来てもらう必要があるか等によっても、大きく変わってくると思います。
そして、無事に鑑定が終われば、今度は医師に鑑定書を作成してもらわなければなりません。
鑑定書作成に要する時間は、完全に医師次第です。
申立時に提出する診断書付票には『鑑定の正式依頼を受けてからどのくらいで鑑定書を提出できるか』という項目もあり、2週間、3週間、4週間、その他、といった項目がありますが、あくまでも目安です。
私の経験上、余裕を持ってとりあえず4週間にチェックする医師が多いような気がしますが、実際は、そんなには掛からずに鑑定書を提出してくれる医師が多いと思います。
裁判所に鑑定書が提出され、その内容に問題がなければ、裁判所が検討の上、ほどなく審判がでる。といった流れになるのが通常です。
なお、ここでいう問題というのは、鑑定書に問題があるという意味ではなく、類型を『後見』で申し立てしたのに、鑑定書では『保佐相当』となったり、『保佐』で申し立てしたのに『後見相当』となった場合のことです。
この場合は、類型変更の申立が別途必要になるため、余計に時間が掛かることになりますので注意してください。
鑑定費用
鑑定費用は、法律等で決まっている訳ではありません。
基本的に医師が自分の判断で決めていいことになっています。
ただし、いきなり高額な請求をされても困るので、申立時に提出する診断書付票には
『鑑定料はいくらでお願いできますか』
という項目があり、さらには
『一般的に5万円から10万円程度でお引き受けいただいています。主治医の場合はできれば5万円程度でお願いできればと思います。』
という記載もされています。
実際に、裁判所の29年度の統計では57.8%が5万円以下、39.7%が10万円以下となっていますので、やはり大部分の医師は5万円から10万円で鑑定を行っているようです。
また、鑑定費用ですが、一旦は申立人が負担する必要がありますが、後見等開始の審判において、申立費用と同様に『本人の負担とする』旨の判断がされることが通常ですので、申立人が負担したとしても、審判確定後には後見人等を通じて、本人の財産から鑑定費用相当額の返還を受けることが出来ますので安心してください。
どういった場合に鑑定が行われるか
多くの方が1番気になっているのはここだと思います。
家事事件手続法には
『家庭裁判所は,成年被後見人となるべき者の精神の状況につき鑑定をしなければ,後見開始の審判をすることができない。ただし,明らかにその必要がないと認めるときは,この限りでない。』
と規定されています。(保佐も同様)
また、東京家庭裁判所のホームページ上では
『裁判官が診断書を含む申立書類の内容を検討し、明らかに鑑定の必要がないと認めた場合は鑑定をせずに審判をすることもありますがそのような場合でない限り、ご本人について鑑定を行う必要があります』
と記載されています。
これだけを見ると、申立の大半において鑑定が行われるような気がしますが、実際はそういうわけではありません。
裁判所が公表している平成29年度の統計でも、鑑定が行われたのは全体の8%ということですので、むしろ、大半の事件において、鑑定が行われていないということになります。
私たちの実務においても、鑑定を求められることは本当に稀です。
つまり、大半の事件においては『裁判官が診断書を含む申立書類の内容を検討し、明らかに鑑定の必要がないと判断した』ということになります。
ということは鑑定の必要がないと裁判官が判断できるような『診断書を含む申立書類』を準備すればよいということになります。
そうなると、やはりここで一番重要になってくるのは『診断書』ではないでしょうか。
どういう診断書が良いのかは一概に言えませんが、診断書の判定の根拠である『見当識』『意思疎通』『社会的手続き、公共施設の利用』『記憶力』は、本人に見合った項目にチェックが入っており、その上で各種検査(長谷川式認知症スケール、MMSEなど)を実施していること。
そして、その点数と上記チェックに整合性があることが重要ではないかと思います。
やはり、本人の状態を、認知症や精神の専門家ではない裁判官が判断するにあたり、各種検査を行い客観的に本人の認知能力が数値化されていることは非常に重要だと思います。
また、見当識等においては『障害が高度』『できない』等の後見相当にチェックがされているにもかかわらず、検査の点数が高いなど、各種検査の点数と、上記チェックに整合性がない場合は、裁判官は鑑定の必要性を否定できず、鑑定の対象になりやすいのではないでしょうか。
それ以外にも、本人の状況や状態について、報告書や上申書などで情報提供を行うことも裁判官の判断の一助になるかもしれません。
ただ、最終的に鑑定を行うかどうかは、裁判所の判断にはなりますので、裁判所から鑑定を行う旨の連絡が来た場合、素直に協力するようにしましょう。
それが審判までの1番の近道になります。
いかがでしたでしょうか。
鑑定についてお役にたつ情報は得られましたでしょうか?
私たちのサービスが、お役にたちますように。
新宿の司法書士 中下総合法務事務所
代表司法書士 中下 祐介
司法書士/簡易裁判所代理権/民事信託士
宅地建物取引士/家族信託普及協会 会員
ファイナンシャルプランナー
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