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親族が後見人になれるかどうかの判断基準とは?

当窓口には、日々、成年後見に関するご相談を数多くいただいております。

その中でも「親族が後見人になれるのでしょうか?」というお問い合わせは、特に多いです。

「親が認知症になったら、自分が成年後見人になって親の面倒を見たい・・・」

「弁護士や司法書士だとはいえ、全く知らない第三者に親の金銭管理をしてもらうのはいい気がしない・・・」

その他にも様々な理由で、ご自身が後見人等になりたいと考えている方は多くいらっしゃいます。

しかし、裁判所に成年後見の申立をする際に、成年後見人等候補者として自分の名前を書いたとしても、親族だからといって無条件で選任されるわけではありません。

では、どういった場合に親族が選ばれるのでしょうか。

今回は、親族が後見人になる場合(以下、「親族後見人」といいます)についてお話しさせていただきます。

※親族後見人が選任される条件等は、裁判所が公表しているわけではありません。

今回のお話は、あくまでも成年後見業務の経験等に基づいた内容です。

その点はご了承ください。

まず、大前提として「絶対に後見人等になれない人」がいます。

これは法律で決まっている欠格事由と呼ばれるものです。
(1) 未成年者
(2) 成年後見人等を解任された人
(3) 破産者で復権していない人
(4) 本人に対して訴訟をしたことがある人,その配偶者または親子
(5) 行方不明である人

これらに該当しない場合は、誰でも後見人等に選任される可能性があります。

それではどういった場合に選任されるのか具体的に見ていきましょう。

基本的には親族でも後見人等に選任される

裁判所への申立の際、後見人等候補者欄に親族の名前を記載すれば、特段問題がない限り、その親族が選任されることが多いように思います。

では、特段の問題とは何でしょうか?

1.親族間に争いがある場合

もし、親族間に争いがあれば、親族の内の誰かが後見人等に選任されるのは難しいと思います。

親族間に争いがあると判断されるのは、親族の誰かが明確に候補者に記載された方の就任に反対している場合はもちろんですが、申立の際の同意書の提出を拒んでいる場合なども考えられます。

つまり、基本的に親族間に争いがあると判断されれば司法書士や弁護士といった専門職後見人が就くことが多いと思います。

2.候補者に問題がある場合

候補者に記載された親族自身に「何かしらの問題」がある場合も、裁判所は選任に消極的になると考えられます。

たとえば、被後見人に対して以前より暴力や金銭的な虐待をしていた場合や、被後見人との間にトラブルを抱えている場合等が考えられます。

また、申立の際、親族を候補者にする場合「候補者事情説明書」という書類を提出する必要があり、この説明書には、候補者自身の家族構成から経歴、職業、収入、預貯金額等の資産状況を記載します。

この「候補者事情説明書」の内容も、後見人等の選任に影響を与えているようです。

その他にも、本人と親族の住んでいる場所があまりにも離れている場合、現実問題として、後見業務に適さないと判断される可能性があります。

つまり、

・親族間の事情や候補者自身の事情
・被後見人と候補者との関係性等

によっては選任されないこともあるということです。
とはいえ、あくまで主観ではありますが、余程の事情がなければ、候補者に記載された親族が後見人等に選任される可能性は高いように思います。

しかし、ここからが重要です。

親族が後見人等に選任される場合には「条件」がつく場合があります。

条件というのは、後見人等に親族が選任されることとあわせて、

①親族後見人を監督するために、第三者の監督人も選任される。
②後見制度支援信託を利用し、被後見人等の預貯金等の大部分を信託銀行に信託する。
③親族以外にも第三者の後見人を選任する(複数後見)

などが考えられます。

①の場合、親族が後見人等になって後見業務を行うことになりますが、裁判所の監督だけではなく、弁護士や司法書士といった第三者監督人による監督を受けることになり、年に数回の面談や、財産状況や収支の報告をする必要があり、一定の行為を行う場合は監督人の同意も必要になります。

②の場合、後見等開始と同時に、一時的に第三者後見人が就任し、財産調査、収支調査を行った上で一定の金額を信託銀行に信託する手続きを行います。

そして、信託が完了すると原則としてこの第三者後見人は辞任をしますので、その後の後見業務は親族後見人等が行っていくことになります。

③の場合、当初から第三者後見人が親族と共に後見人等に就任した上で、共同で後見業務を行っていくことになります。

場合によっては、事務分掌(じむぶんしょう)といって、財産管理は第三者後見人、身上監護は親族後見人といった具合に権限を分ける場合もあります。

なお、どういった場合にこのような条件が付くのかというと、①と②の場合は、財産額が多い。財産が多岐にわたる。収支が複雑。などが考えられます。

ただ、財産額が多いといっても明確な基準があるわけではなく、現在は流動資産(預貯金など)が300万円くらいから上記のような条件が付けられる場合も多いと聞きますが、現状、親族後見人にはそれなりの確率で条件が付けられている気がします。

ちなみに、現在は財産額が多い場合は、上記の内①か②を親族に選択してもらう場合も多いようです。

この場合は①と②のメリットデメリットを検討した上で、慎重に判断する必要があります。

また、③の条件に関しては、直近で不動産等の売却や遺産分割協議等の大きく資産が動く手続きを控えている場合に特に利用されている印象を受けます。

この場合、基本的には、これらの手続きを完了するまでの間のみ、第三者後見人が就任し、手続きを終えた段階で、取得した財産を後見制度支援信託による信託を行った上で第三者後見人が辞任するか、もしくは第三者後見人から監督人にスライドするといった形が多いように思います。

おわりに

いかがでしたでしょうか。

これまでご説明したとおり、親族であっても後見人等に選任される可能性は十分にあります。

むしろ裁判所としては「積極的に親族に後見人等になって欲しい」と考えていると思います。

しかしながら、後見業務は、日々の金銭管理、収支管理は想像以上に大変であり、後見人等による財産の横領等もある中で、様々な条件が付けられているのが現状といえるでしょう。

なお、裁判所もそれぞれの事情により柔軟に対応している印象はありますので、特別の事情等があれば裁判所に上申してみるのも良いかもしれません。

そして、最後に1番注意しなければならないのは、「自分が後見人に選任されないのであれば」「監督人が付くのであれば」「何かしらの条件がつくのであれば」申立てを取り下げるということは基本的にできません。

申立てが行われ、裁判所がその人には成年後見制度が必要だと判断すれば、あとから嫌だと言っても申立て自体を取り下げることはできないのです。

したがって、申立の際には十分に準備、検討していただければとおもいます。

当窓口では、成年後見の申立て業務に特化した司法書士が、後見人等が選任されるまで、スムーズに手続きが進むようにサポートさせていただきます。

ご不安やお悩みがある方は、いつでもお気軽にご相談ください。

私たちのサービスが、お役に立ちますように。

当記事は、記事執筆時点で公となっている情報に基づいて作成しています。
この記事の監修者

新宿の司法書士 中下総合法務事務所
代表司法書士 中下 祐介

司法書士/簡易裁判所代理権/民事信託士
宅地建物取引士/家族信託普及協会 会員
ファイナンシャルプランナー

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