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成年後見の意外な落とし穴に注意!成年後見(法定後見制度)で知っておくべき5つのこと

☆本稿では、成年後見制度のうち「法定後見」をテーマに、サポートを受ける方を【成年被後見人】サポートをする方を【後見人】として記載しています。


◎「成年後見制度」とはどういう制度なのでしょうか?
成年後見制度は、認知症や知的障害などで『判断能力(※)』が不十分な方に対して、家庭裁判所が本人に対する援助者を選び、その援助者が本人のために活動する制度です。

『判断能力』について、家庭裁判所は、「売買などをする際に、その行為が自分に有利なのか、不利なのか適正か不適正かを考えるのに必要な精神能力」という説明をしています。

何より大切なことは、この制度は「被後見人(ご本人)のための制度」であり、財産管理・身上監護(介護などは含まれません)など、ご本人の生活をサポートし、権利を守ることを目的にしているということです。

ですから、お抱えになられている問題やお悩みの解決方法が、制度の目的に即していない場合、成年後見制度を利用しても問題は解決しません。(例えば、ご本人以外の借金を払うために、成年被後見人の自宅を売却することはできません。)

では、制度の趣旨を前提に、成年後見制度のポイントを確認しましょう。

1.申立ての注意点(想定どおりに進むとは限らない!)

成年後見のご相談の際、よくあるご質問は以下の3つです。

① 利用開始までにどれくらいの期間がかかりますか?
② 費用はいくら位かかりますか?
③ だれが成年後見人になるのですか?

①について、東京家庭裁判所においては、通常は1~2か月程度の期間がかかっているようです。

ただし、裁判所の混雑具合や申立ての内容によりますので絶対ではありません。特に、お医者さんの診断内容によっては、裁判所から精神能力の「鑑定」を指示されることがあります。

この場合は、鑑定の手続きによって期間が長くかかる場合がありますので注意が必要です。

何かの手続きをするために、成年後見の申立てを検討している方は、余裕を持ったスケジュールを組み立てた方が良いでしょう。

また、お医者さんの診断内容や裁判所の面談結果等によっては「成年後見」ではなく、それよりも本人の意思決定権が幅広く認められる「保佐」や「補助」になることもありますので、そのことについても十分に理解しておきましょう。


②について、実費等(印紙代・郵便切手・交通費)は、大体1万円以内で収まることが多いです。

ただし、①でも説明した「鑑定」があった場合は、お医者さんの鑑定手続きのために、一般的に「5~10万円」程度の費用が発生します。

このほかに、申立てを司法書士などの専門家にお願いした場合は、それに対する報酬も発生します。(報酬は事務所ごとに異なります。)

なお、後見人に司法書士などの専門家がついた場合や、後見監督人(後述します)が付された場合は、その専門家に対して毎月の報酬の支払いが発生します。(報酬の金額は事案ごとに異なります)

③について、ご自身が成年後見人になりたいと考えて申立てをした場合に、必ず選んでもらえるとは限りません。

場合によっては、希望どおりに選んでもらえず、他の方を成年後見人とする審判がなされる可能性もあります。

そういった場合に、申立てを自由に取り下げられるかというと・・できません。
一度申立てをしてしまうと、その取り下げには「裁判所の許可」が必要になってしまいます。

予期せぬことにならない様、申立てをする際は、できれば専門家に相談されることをおススメします。

2.不動産(自宅)の売却には家庭裁判所の許可がいる

当窓口へのご相談者様の中には、成年後見制度を「自宅の売却」や「遺産分割協議」の手段と考えている方がいらっしゃいます。

この点、勘違いをされている方が多いのですが、成年後見人が選ばれた後であっても、自宅の売却のように重要な行為をする場合は、自由に行うことはできません。

自宅の売却については「家庭裁判所の許可」が必要になります。

つまり、「不動産の現金化のために自宅を売却したい」という希望があり、成年後見制度を利用したとしても、裁判所が許可をしてくれない可能性があります。また、家庭裁判所の許可にはある程度の時間がかかります。

最初の話に戻りますが、ご本人のためになることが客観的に明らかでない場合は、成年後見制度の目的に即さないため、家庭裁判所は認めてくれません。このことは十分理解しておく必要があります。

3.問題が解決しても後見は終わらない

成年後見は一度開始すると、基本的に成年被後見人の寿命まで終了しません。

つまり、ある問題解決のために成年後見制度を利用した場合、その問題が解決した後も後見は続ける必要があります。

ですから、裁判所への定期的な報告はもちろん、専門家が後見人になっている場合は、報酬の支払いも継続的に発生します。

成年後見制度は、現状抱えている問題と将来的な負担を総合的に判断して利用することが大切です。安易な解決策としての利用は注意が必要です。

4.後見監督人・後見制度支援信託

後見制度の利用にあたって、一般的にあまり知られておらず、注意しなければいけないことがあります。

それは「親族が後見人になるケース」です。

親族が後見人として選任された場合、無償でサポートすることがほとんどだと思います。

ですから、できる限り金銭的な負担・事務負担を減らしたいと考えるのが通常でしょう。

しかし、現在、裁判所(本稿では東京家庭裁判所)では、親族が後見人になった場合で成年被後見人の方の流動資産(現金など)が【500万円~1000万円】を超えている場合、以下の2つのうちいずれかを利用しなければなりません。

①成年後見監督人
②成年後見制度支援信託

①は、裁判所から司法書士などの専門家が後見監督人として選任され、後見人が適切にサポートをしているかをチェックする制度です。

監督人が選任されると、一定の行為をするためには監督人の同意が必要になり、またその監督人に対して報酬の支払いが発生します。

②は、成年被後見人の財産について、日常に必要な財産のみを手元に残し、そのほかについては、信託銀行に信託させる制度です。

この制度を利用していると、例えば後見をしていく中でまとまったお金が必要になった場合(自宅の補修など)は、裁判所の指示がなければお金が引き出せないことになります。

後見人による浪費や経済的な虐待を避ける効果があるのですが、財産管理が煩雑になってしまうことも事実です。

親族が後見人になることを予定している場合は、事前にこういった仕組みがあることを十分に理解しておく必要があるでしょう。

5.後見制度を利用しなくても良いケースもある

「成年後見制度」は、今の時代に必要な制度であると同時に、ご本人の財産やご家族に少なからず負担が生じることも事実です。

確かに、成年後見制度でなければ解決または実現できないこともあります。

しかし、皆様からのご相談の中には、成年後見制度を利用せず、ほかの方法で代替できる場合や、そもそも後見を申し立てる必要がない場合もあります。

前述のとおり、成年後見制度は、一度開始すると自由にやめることはできません。
ですから、利用をするにあたっては十分な検討とリスクの確認をしておくことが大事です。

成年後見制度は、利用の目的や方法によっては非常に有効であると同時に、色々と検討が必要な制度です。

当窓口では、成年後見に関するご相談にも対応しております。
「後見制度を利用したほうが良いのだろうか・・・」「今後、成年後見人をつける可能性があるので、事前に相談をしておきたい。」という方は、いつでもご相談ください。

私たちのサービスが、少しでもお役に立ちますように。

当記事は、記事執筆時点で公となっている情報に基づいて作成しています。
この記事の監修者

新宿の司法書士 中下総合法務事務所
代表司法書士 中下 祐介

司法書士/簡易裁判所代理権/民事信託士
宅地建物取引士/家族信託普及協会 会員
ファイナンシャルプランナー

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